
将来の目標は「顧客が自由に月額利用料を決める」サービス!? オウケイウェイヴに定着したサブスクモデルの過去と未来
近年注目されるサブスクリプションビジネス。収益の安定化を目指してサブスクリプションによる新たなビジネスモデル作りを進めている企業も多いのではないでしょうか。
現在、オウケイウェイヴでは、サブスクリプションビジネスの仕組みを収益の主軸としています 。以前の記事ではサブスクリプションビジネスが拡大し始めた約10年前の現場に立ち会っていた社員を取材しました。
そこでキーマンとして語られたのが、取締役副社長の佐藤哲也(当時は事業部長)です。
今回の記事では佐藤を迎え、オウケイウェイヴに中途入社して間もない2人の社員がインタビュー。サブスクリプションビジネスを定着させるためにどのような仕組みを作り、組織を改革してきたのか、その実体験を語ってもらいました。
鈴木 洋佑(すずきようすけ)
2020年1月入社。マーケティング部マーケティンググループ所属。『サポツウ!』(https://okbiz.jp/spt/)というWEBメディアを運営し、記事の執筆・メルマガの配信等を担当。
中川 香純(なかがわかすみ)
2020年2月入社。ソリューション事業部テクニカルエンジニアリング部所属。お客さまに技術的サポートをするチームで、システムの使い方の支援や利用の推進を担当。
(佐藤哲也 プロフィール)
1961年生まれ。1984年株式会社リコー入社。1992年マイクロソフト入社。同社で業務執行役員 パーソナルシステム事業部長、業務執行役員 製品マーケティング本部長、業務執行役員 エンタープライズクロスインダストリー本部長、業務執行役員 セントラルマーケティング本部長を歴任。2013年 にオウケイウェイヴに入社し、エンタープライズソリューション事業部長に就任。マーケティング本部長、OKWAVE総合研究所所長を経て、2014年9月より取締役、2019年9月より取締役副社長。
スペックを追求し続ける「プロダクション型」の限界
佐藤さんが入社した2013年頃には、オウケイウェイヴはすでにサブスクリプションのビジネスを進めていたんですか?
そうですね。私が入る前からサブスクモデルの月額課金ビジネスがありました。創業者の兼元さん(取締役会長)をはじめとして、経営陣は創業当初からサブスクモデルを志向していたんですよ。ただ、マネタイズの方法としてはあったけれど、サブスクモデルの強みや弱みを本当に理解した上で回せていたわけではなかったと思います。
サブスクの考え方をいち早く持っていた企業なんですね。でも、なぜ生かしきれていなかったんでしょうか。
当時はみんな、FAQシステムの機能開発に目が行っていたのかもしれません。他社に機能面で負けないようにしようと。車で言えば「とにかく速い車を作ろう」「丈夫な車を作ろう」と考えるようなもので、スペックを高めることが最優先で、ビジネスのあり方についてはあまり考察されていなかったんです。
スペックを追求するのは当たり前のような気もしますが……。
そう、ITベンダーとしては当然のことですよね。
でもシステムの世界は、どこかがいいものを作れば他社もすぐに真似をする厳しい世界です。勝ち続けるには常に最高の機能を搭載しなきゃいけないんだけど、それは本当に大変なこと。
かつては日本の製造業が強い時代があって、ソニーやパナソニックといったメーカーが世界のトップを争っていました。最高の製品を作れば勝てる時代があったんです。でもそれをやり続けているといつしか、どこかの誰かに負けてしまいます。僕はこうしたビジネスモデルを「プロダクション型」と呼んでいます。
サブスク型とは対照的ですね。
プロダクション型には限界があります。現在の世界のトップを争うGAFAの例で考えると分かりやすいかもしれません。
Appleはプロダクション型に近くて、最高の製品を追求して年に1回や半年に1回のペースでリリースしています。そうして「今度のiPhoneはすごいぞ」と評判になることもあります。だけど常にその評判をアップデートしていくのは難しい。
一方で、Amazonはサブスクの典型と言えるでしょう。最初は本をネットで売っていただけだけど、今ではプライム会員を対象とした「Amazon Prime」が最大の収益源となっています。
「嫌われないように努力しなきゃいけない」ビジネスモデルへ
僕はサブスクの定義を曖昧に理解していたかもしれません。単にマネタイズの形として考えていたんですが、ビジネスのあり方そのものが違うんですね。
そうですね。サブスクでは「お金のもらい方」の議論になりがちですが、現実的にいちばん大切なのは「お客さんとの付き合い方」なのだと思います。
1台のパソコンがあったとして、それを30万で売り切るのか、月額1万円で36回支払ってもらうのかでは付き合い方が変わってきますよね。
売り切りなら、極端な話、そのお客さんと二度と会えなくてもいいわけですよね……。
でもサブスクだと1カ月ごとにしかお金をもらえないから、半年後に「やっぱり気に入らない。さようなら」と言われては困ってしまうわけです。お客さんとの間には良い意味での緊張が続きます。
だから、お客さんとの関係性を維持する努力をしなきゃいけない。これを僕たちは「リテンション」と呼んでいます。
別れちゃいけないビジネスモデル。
そう。「嫌われないように努力しなきゃいけない」ビジネスモデルなんです(笑)。
「そうしたビジネスに対応していくよ」というのは、例えば営業部門の人たちにとってはかなり大きな変化だと思うんです。当時の営業のみなさんは、すぐに理解してくれたんですか?
理屈上はすぐに理解してくれました。売り切りで30万円よりも、3年間で36万円、そしてさらに継続してもらったほうがいいよねと。一方で難しかったのは評価の部分ですね。
それまでの営業は「1000万円のシステムを売る人が偉い」という世界で、売り切りの大型受注が評価されていました。
それが当たり前だったら、急に月額1万円の受注が大事だと言われても、「それでどう評価してもらえるの?」と不安になるのは当然ですよね。
だから人事評価制度も変えました。
具体的な一例を言うと、「専用サーバー料金」の話があります。専用サーバーとなると当時はそれこそ1000万円規模の商談になり、決めてきた人はヒーローでした。でも僕はそうした受注の仕方や、評価のあり方をやめたんです。
ビジネスはあくまでも継続型。専用サーバーを使ってもらうなら月額100万円という契約とする。そうじゃなければ評価しないよ、と。
かなり強烈なメッセージですね。
そうすることで「サブスクモデルを本気でやる」という会社の意志を伝え、現場の行動を一致させていったわけです。
サブスクモデルを支えているのは、全部門の一人ひとり
もう一つ大切だったのは、お客さんから嫌われないように努力するための「役割」を明確にしたことです。プロダクション型のビジネスでもサポート部門は置かれますが、はっきり言って従来は「コスト」だと思われていました。売り切ってしまった後のお客さんのサポートからは、新たな収益は生まれないという考え方ですね。
オウケイウェイヴではその考え方を180°転換しました。サポート部門の仕事も営業と同じくらい大切で、新たな収益を生み出す役割なのだという評価制度に変えたんです。そうして、お客さんとの関係性を維持することが事業部全体のKPIになりました。
具体的には、どのような指標を導入したんですか?
まずは「お客さまに選ばれる存在になる」「自社とお客さまのビジネスを伸ばす」「顧客満足度を向上させる」という3つの方針を掲げ、最重要KPIとして「MRR」(Monthly Recurring Revenue)を設定しました。
というと難しく聞こえるかもしれませんが、そんなに複雑な話ではなくて。例えば2人は、日常生活でどんなサブスクサービスを使っていますか?
U-NEXTとか。
Amazon Primeとか。
それぞれに使い続ける理由があると思うんです。買い物をしたり音楽を聴いたりビデオを見たり。サービス提供側としては、そうやって使い続けてもらうことが大事です。
使わなくなると、「無駄なお金を払っているなぁ、解約しようかな」と考えてしまいますね。
ですよね。だから、まずは「ちゃんと使ってもらえているか」を把握しなければいけない。
あまり使ってもらえていないなら、その理由を確認してツールの使い方を教えたり、活用事例を紹介したりする必要があります。契約期間の更新時期が近づけば、更新してもらえるようにきちんとコンタクトを取ることも大切です。
要は自分がサブスク型を使っている立場だったとして、「解約しようと思わない」理由を再現していくことが求められるわけです。
そうした仕事を、1人の営業パーソンでやりきるのはとても大変そうです……。
当然そう思いますよね。だから営業部門の体制を見直して、営業パーソンは新規顧客担当と既存顧客担当に分けました。同時に、技術的な問い合わせに対応する役割を新たに作り、お客さんの満足度を高めてもらったんです。
営業やマーケティングだけではなく、全社で一緒に顧客満足度を高めていく取り組みも始めました。例えばオウケイウェイヴでは、経理担当が毎月発行する請求書の中に「ありがとうございます」という気持ちを込めたメッセージカードを同封しています。
こうしたメッセージがお客さんの中で話題になればうれしいし、営業を通じて経理に「ありがとう」の返事が伝われば、みんながうれしくなりますよね。オウケイウェイヴのサブスクモデルを支えているのは、全部門の一人ひとりなんです。
そういえば私の母は、メルカリで買い物をしたときに「手書きのお礼メッセージ」を受け取って、とても喜んでいました。
まさに、そうした感動を与えられるかどうかが重要なんだと思います。
「どこまで好きでいてもらえているか」も見えるようにしたい
サブスクモデル定着に向けて動いてきた中で、手応えを感じるようになったのはいつ頃ですか?
数字的な部分で言えば、解約率が減ってきたタイミングでしょうか。月額の利用料金がどんどん増えていけば、会社としてはどんどん安定フェーズに入っていけます。
一つのゴールだった「月額1億円」を超えたときには手応えを感じましたね。極端なことを言えば、解約がゼロなら年間12億円の売り上げが保証されているわけですから、こんなに心強いことはありません。
2020年はコロナ禍で多くの企業の業績に影響が出ていますが、サブスクだとこうした逆境にも強いですよね。
そうですね。ここまで逆境に強いマネタイズのモデルは他にないと思います。
逆に、サブスクモデルの今後を見据えて感じている課題はありますか?
オウケイウェイヴでは堅実に売り上げを安定化させることができましたが、爆発的なヒット商品が出ているわけではありません。その意味では、イノベーティブなモデルを生んで成長させていくチャレンジ精神が必要だと思っています。
どんな要素があれば、オウケイウェイヴはもっとイノベーティブになれるのでしょうか?
その答えは簡単には言えませんが、少なくとも「オウケイウェイヴのサービスは世の中に必要だ」「オウケイウェイヴのサービスがないと困る」と思ってもらえるレベルにまで持っていかないとダメだと思います。
これは市場のニーズだけを考えていても難しいんですよね。開発部門から出てくる新しい技術の話を聞きながら、自分たちの生活やビジネスの中で使い方を当てはめ、提案していく観点が必要でしょう。
そういう意味では、新しい技術をキャッチアップしていくための現場の余裕がまだまだ足りないのかもしれませんね。
僕もコロナ前まではそう思っていたんです。普段はみんな忙しくて、新しいことを考える余裕がなかなか持てないんじゃないかな……と。
現在はほぼ在宅勤務だと思いますが、通勤時間はどれくらいかかっていますか?
私はドアtoドアで2時間です……。
それは大変ですね! 他の人でも、往復で2時間くらいかかっている人は多いですよね。でも通勤時間がなくなった今は、ゆっくり考える時間も持てるようになったんじゃないかと思います。以前から考えていたこと、やりたいと思っていたことに、これからは本格的に向き合っていきたいですね。
サブスクモデルの将来に向けて、オウケイウェイヴとして挑戦していきたいと考えていることはありますか?
アイデアはたくさんあります。一つ例を挙げるとすれば、「お客さん自身が支払う対価を決める」というビジネスモデル。お客さんに月額使用料を決めてもらうということですね。
オウケイウェイヴが設定した金額ではなく?
そうです。ずっと無料でもいいし、お客さんが「いいサービスだ」と思ってくれたら、月額100円で使い続けてもらってもいい。価格は自由に決めていただきます。
現状では、そんなサービスはおそらくないと思います。なぜこれをやりたいかというと、お客さんにもっともっと僕たちを意識してほしいから。
日頃使っているアプリなどでも、有料のものをダウンロードしたら「ちゃんと使おう」と思いますよね。少額でもいいからお金を払うことで意識してもらえるようになるし、僕たちとお客さんの関係性を図る通信簿にもなると思うんです。
今は「サービスを使っていただけているか」を可視化できるようになりました。今後は「オウケイウェイヴのことをどこまで好きでいてもらえているか」も見えるようにしていきたいと考えています。