
「正解のない製品」だからこそQ&Aコミュニティが重要。ローランドが大切にするファンユーザーとのつながり
企業がユーザーと長く良好な関係を保ち、ユーザーとともに製品やサービスを進化させていくためには何が必要なのでしょうか。
そのヒントを与えてくれるのが、日本発の企業として世界の音楽文化の発展に貢献するローランド株式会社。電子ピアノやシンセサイザー、ギター・ベース・ドラム関連製品など、電子楽器を中心にコアなファン層を獲得してきました。
楽器関連製品は一般的な家電機器などとは違い、「ユーザーそれぞれの使い方」によって価値が変わってくるもの。そのためユーザーサポートの役割はとても重要なのですが、ローランドではさらにOKBIZ.のシステムを活用したQ&Aコミュニティを機能させ、多くのユーザーが知見を交換し合い、悩みを解決しています。
ローランドは2020年、企業が自社のQ&Aコミュニティの貢献ユーザーに感謝の気持ちを伝える「OKWAVE AWARD 2020」に賛同し、優良回答者ユーザーへの表彰を実施しました。その過程でも私たちは、ローランド製品を愛するファンユーザーとの強いつながりを目撃することとなりました。
企業とユーザーが良い関係を続けていくために必要なこととは? 同社のサポート業務を長年にわたり推進する長谷川孝さんにうかがいました。
ローランド株式会社 営業推進部 ダイレクトマーケティンググループ
長谷川孝さん
新卒でローランド入社。開発部署でDTM(デスクトップミュージック)関連のパッケージ商品などを担当した後、お客様相談センターへ異動。メール窓口やウェブのサポート窓口、電話窓口などでリーダーを務める。現在は日本のユーザーサポートと並行して海外ユーザー向けサポート部門との連携も進めている。
ローランドの製品は「製品が主役ではない」
――貴社は電子楽器や楽器関連製品を中心に、「ユーザーに使いこなしてもらう」ことが真の価値となる製品群を幅広く展開されています。こうした事業を展開する上で、ユーザーサポートはどのような役割を担っているのでしょうか。
私たちの業務はローランド製品を道具として使う際に生じる疑問や戸惑いをサポートするためのものです。ただ、製品としての使い方そのものはローランドがサポートしていくべきですが、その先の使いこなし方については、メーカーとして口を出すべきではないとも考えています。
――「口を出すべきではない」とは。
これは個人的な考えですが、ローランドの製品は「製品が主役ではない」と思っています。ユーザーさんは製品そのものではなく、製品を使って生み出す音楽に価値を感じてくださっています。
他の製品、たとえば白物家電などは使う目的が明確で、メーカーによって決められた「正しい使い方」というものが存在していますよね。しかしローランド製品は、使う目的もユーザーさんによってさまざまで、決まりきった正解があるわけではありません。どうやって良い音楽を生み出していくのか。これはユーザーさんの自由に任せていくべきだと思うのです。
そうした意味では、ローランドのユーザーサポートは2段階で成り立っているのかもしれません。あくまでも道具としての機能についてサポートする私たちサポート部門と、ユーザーさんの自由な発想をシェアしていただくQ&Aコミュニティ。この2つがあることで、多くのユーザーさんが疑問を解決できているのだと思います。
責任を負わなくていいユーザーだからこそ伝えられることがある
――OKWAVE AWARD 2020で優良回答者ユーザーとして選出された方をはじめ、貴社は数多くのファンユーザーを抱えていますね。
ローランド製品を長い間ご愛用いただいているユーザーさんは本当に多くて、ありがたいことだと思っています。私たちはずっと、ある意味では好き勝手に「これは喜ばれるんじゃないか」と思う製品を自由に開発してきました。それでもファンとして愛してくださる方が多いことに感謝しています。
※OKWAVE AWARD 2020とは
多くの“ありがとう”を生み出しているQ&Aサイトのユーザーを表彰する年間企画。「OKBIZ. for Community Support」を導入する8社が賛同し、各社がそれぞれに優良回答者を選出し「OKBIZ. CS Answers Award」として表彰。
――今回、優良回答者ユーザーを選出された際の理由とは?
このユーザーさんの回答は、ただの質問に対する回答ではありませんでした。
疑問や悩みを抱えて質問する人の背景には、必ず別の意図や大きな目的があるものです。でも、それをユーザーさん自身が的確に表現するのは難しいんですよね。完璧な質問ができる人なんていない。これは長年ユーザーサポートに携わってきて強く感じていることです。だからこそ私たちは、ユーザーさんが何に困っているかを想像し、引き出さなければいけません。
今回の受賞ユーザーさんは、日頃からそれを実行しています。相手が何に困っているかを想像しながら回答するからこそ、ベストアンサーにも数多く選ばれているのでしょう。一つひとつの回答を見ていても、「どうにかして疑問や悩みを解消してあげたい」という気持ちが伝わってきました。
――このようにしてファンユーザーがQ&Aコミュニティで共有してくれる知見やノウハウは、貴社が直接提供する知見やノウハウと比べて、どのような違いがあるのでしょうか。
メーカーからの公式コメントとなると、絶対的に正しくなければいけません。「もしかしたらこうかも?」「試してみたらいけるかも?」といったレベルの情報をお伝えすることはできないんです。他社製品との比較もよく話題に上りますが、メーカーとしては公開されている場で言及していくのは難しいですし、個別のお問い合わせ対応でも限界があります。そのため、メーカーとしての回答はどうしても「ふわっとした」内容になりがちです。
ユーザーさんの場合は、メーカーではないからこそ大胆に答えられる面があり、質問する側もそのつもりで聞けますよね。冒頭でお話したような「使いこなし」の部分でも、「自分だったらこうするよ」という個人的見解を、責任を負わずに伝えていただくことができます。他社製品との比較についても分かりやすく伝えてくださっているユーザーさんが多いです。
――ユーザーさんには良い意味での「無責任さ」があるからこそ、質問者のニーズを満たせるのかもしれませんね。
そうですね。責任を持とうとすると、どうしても踏み込んで答えられない領域があります。その情報を求める場がQ&Aコミュニティなのではないでしょうか。
ローランド製品の場合、機器のトラブル対処などについては私たちからガイドラインを提示できるのですが、「音の捉え方」や「音作りの方法」などは千差万別で、一律の基準を示すことはできません。だからこそQ&Aコミュニティが頼られているのだと思います。
ローランド株式会社 Q&Aコミュニティ
製品を使って困ったことや疑問を利用者同士で解決できる。
OKBIZ. for Community Supportを活用。
コミュニティがなければ、ファンにならなかったかもしれない
――長谷川さんご自身のことについてもお聞かせください。新卒でローランドに入社されていますが、入社前からローランドのファンだったのでしょうか?
はい。私自身、高校2年生で初めてローランド製品を手にして以来のファンです。
テレビ番組『シルクロード』のテーマ曲などで知られる喜多郎さんをきっかけにシンセサイザーの音を知り、小学生のころからコンピュータミュージックが大好きでした。楽器は弾けないのですが、コンピュータで技術的に演奏することに興味を持ち、どんどんのめり込んでいったんです。
大学時代には夜遅くまで曲のデータを作っては、パソコン通信のサイトに自作曲のデータをアップし、他のユーザーと交流していました。情報掲示板で他のユーザーが困りごとを投稿していたときには、解決策を回答していました。
――現在のサポート業務と通じる部分がありますね。
そうですね。当時のコミュニティ体験は、確実に今の仕事につながっていると思います。
当時はコンピュータミュージックがまだまだ一般的ではない時代でした。YMOやTM NETWORKといった人気アーティストが登場していたものの、周囲にパソコンを持っている人はほとんどいませんでしたし、コンピュータミュージックやシンセサイザーのことを語り合える仲間も身近にはいませんでした。パソコン通信で他のユーザーと交流していなければ、私はファンにならなかったかもしれません。
そう考えると、Q&Aコミュニティの存在は本当に大きいですよね。
Q&Aコミュニティから生まれた音楽が世界へ発信されていくかも
――今後、ローランドはユーザーとのつながりをどのように広げていくのでしょうか。ファンユーザーを増やすために取り組んでいることや、今後実現していきたいと考えていることがあれば、ぜひお聞かせください。
ここ2〜3年前は、ユーザーさんを当社研究所内のミュージアムに招待して古い製品を見ていただいたり、開発メンバーとのディスカッションに参加していただいたりといった場を設けてきました。引き続き、ユーザーさんとの双方向での交流を深めていきたいと考えています。
また、個人の発信がより重要性を増していく時代なので、私たちだけではなく、ユーザーさんからもローランド製品の魅力を発信していただけるよう取り組んでいきたいと思っています。現在は「Backstage」というユーザー専用サイトを運営し、さらに「Roland Cloud」という音楽制作ツールやソフトウェアをサブスクリプション形式で提供するサービスも展開しています。これらのプラットフォームとコミュニティをうまく融合させながら、つながりの場を広げていきたいですね。
コミュニティは日本でも海外でも価値あるものとして認識され、広がり続けています。ゆくゆくは、ここから生まれた新しい音楽が世界に向けて発信されていくのかもしれません。